鍼灸院には多種多様の患者様がいらっしゃり、その疾患、症状の幅はあり過ぎる程に大きい。特に慢性疾患のものには、合わせたそれぞれの人生ドラマを見ることが出来る。個人的には患者様への理解の為にその職業や立場に俳優かのようになりきり、痛みや心情に触れるよう、イメージすることを努力している。そうすることによって施術のなかで患者様に“一言”を与えられると思っているからだ。
心情が症状に反映されるものは多くあると思うが、不眠症状はその関係性が特に深いものだと思う。
厚生労働省が定める不眠症とは「入眠障害、中途覚醒、早朝覚醒、熟眠障害などの睡眠問題が1ヶ月以上続き、日中に倦怠感、意欲低下、集中力低下、食欲低下などの不調が出現する病気のこと。原因はストレス、こころやからだの病気、クスリの副作用など。長期間にわたり夜間の不眠と日中に精神や身体の不調を自覚して生活の質が低下する、このふたつが認められたとき不眠症と診断される」とあらわしている。
中医学においては、疲労、過労、思慮過度などから胃腸機能失調などから気血(陰)不足により、脳や精神面が栄養を失うと不眠となると考えている。
不眠には、精神、心理的要因が大きく影響するといえるだろう。
上記までを考えると気血(陰)不足が不眠を起こすのであれば、睡眠をとるということは、気血を補えるものなのでないだろうか。気血が補われることで心が栄養され、精神、意識、思惟活動などの精神機能が正常に維持される。また、栄養されることで他の身体、生理機能までも健やかに働くことが考えられる。より、睡眠は、精神機能、生命活動において重要性が高いということが分かる。
東洋医学的鍼灸治療においては、気血(陰)を補う効果のあるツボを処方し、症状の改善に尽力する。
その眠りを十分にとるためには、安心が必要であると思う。不安がある状況や環境ではしっかりと休めない。何を意識するでもない場所、肩の力を抜いて良い場所、素の自分でいられる場所、夜泣きした子供にとっての親の胸の中のような安心できる場所、空間が誰しもに必要であると思う。